【文献紹介】
Muter, P. and Maurutto, P.: Reading and skimming from computer screens and books: The paperless office revisited?, Behaviour & Information Technology, Vol.10, No.4, pp.257-266, (1991).
http://www.psych.utoronto.ca/users/muter/pmuter2.htm
【概要】
80年代の標準のコンピュータでの読みは、紙での読みよりも遅いというのが、これまでの研究で示されてきた。本稿では、スキミングと読みを調べた。スキミングは本に比べて、ディスプレイでは40%遅い。高品質ディスプレイでは、読みのスピードと理解度は本と同じだった。ペーパーレスオフィスは今にも起ころうとしている。
【詳細】
1970年代、遠くない将来にペーパーレスオフィスの出現が予想された (Lancaster 1978)。しかし、ディスプレイでの読みは紙での読みよりも遅いことが実験的に示された (たとえば、Muter 1982)。コンピュータが広く普及するに応じて、紙へのアウトプットも増加した。そして、予想は、「紙はコミュニケーションにおける最も人気のある手段であり、今後もそうあり続けるだろう」というものに変わった (Plume 1988)。
Muter (1982) は、vidoetex と本とで読みのスピードと理解度を比較。vidoetex は、本に比べて28.5%遅い。両者において、理解度には差はない。他にもCRTでの効率の低下について、多くの研究者が指摘 (Creed 1987; Gould 1984; Gould 1987a; Haas 1986; Hansen 1988; Kruk 1984; Wilkinson 1987; Wright 1983)。
本での読みとコンピュータでの読みの違い (違いをもたらす要因)
・読んでいるモノと読み手との距離
・読んでいるモノの角度
・文字の形
・解像度 (Harpster et al 1989)
・行の文字数 (Duchnicky & Kolers 1983)
・ページの行数
・ページの単語数
・行間のスペース (隙間) (Kruk & Muter 1984)
・文字の実際のサイズ
・文字の視覚的な角度
・文字間のスペース (隙間)
・左寄せ (left justification) vs 両端ぞろえ (full justification) (Campbell 1981; Trollip & Sales 1986)
・マージン
・文字と背景のコントラスト比
・光が断続的か連続的か
・polarity (暗い背景に明るい文字か、明るい背景に暗い文字か) (Bauer & Cavonius 1983)
・光が放射か反射か
・interference from reflections (Daniel 1987)
・安定性 (ちらつき、ゆらぎ、チカチカした光) (Stewart 1987)
・色度 (chromaticity) (Matthews et al 1989)
・読み手の姿勢
・メディアの親密性 (familiarity)
・偶発的な位置的手がかりの有無 (Wright 1984)
・アスペクト比
・角のシャープさ
・湾曲 (curvature)
・コーナーの歪み
・システムの反応時間
・text advancement の手法
Gould et al (1987b) によると、高解像度でアンチエイリアス処理をしたCRTディスプレイでは、紙と比較して校正スピードに有意差はない。同様の結果は、Oborne & Hoton (1988) によっても導かれている。彼らは紙の品質を落としてCRTディスプレイと同程度にして比較し、読みのスピードに違いがないことを示している。
2. 実験1
被験者は24名 (年齢は19~30)。19名はトロント大学の学生。素材は『The complete works of Saki』(1976) の短編。
本の条件では、およそ5ページの文章からなる。サイズは 10.5x17cm。各ページは41行であり、列には60の文字。文字のサイズは10ポイント。
CRT条件では、Macintosh II を利用。モニタの解像度は640x480。リフレッシュレートは66.7Hz。サイズは23.5x17.6cm。文字は12ポイント。文章はおよそ12ページ。各ページには、12行分のテキスト。
→ 本とCRTとで表示面積、文字ともにサイズが異なるのが気になる。ページあたりの行数、文字数が異なるのもいかがなものか。
前のページに戻って読んではいけないことを教示。
タスクは2種類
・読み
・スキミング
スキミングでは、内容の全体的な感覚、主要な点のみを獲得するため、通常の3~4倍の速さで読むように教示される。
読み、スキミングについて、被験者をランダムに振り分け (すなわち、両実験は12名ずつ)。デザインは、被験者内の 2(メディア)×3(試行) ANOVA。
結果
○ 読みについて
・スピードに関しては、紙、CRTで差はない
・理解度については、CRTの方が高いが、優位な差ではない
○ スキミングについて
・スピードに関して、紙はCRTよりも速い (全員が紙の方が速い)
CRTの方が41%遅い
・理解度については、CRTの方がよい
・効率 (スピード×理解度) では、紙の方が高い
スピードと理解度のトレードオフ。
距離については、読みのタスクで、本よりもCRTの方が読み手から遠かった。スキミングについては、距離に有意な違いはなかった。
3. 実験2
読みにフォーカスして、フォーマットとの関係を調べる。
被験者は18人 (年齢は19~29)。
Sakiの6つの短編を素材として利用。
テキストフォーマットの違う2つのディスプレイ
CTR-A: 80年代の多くのコンピュータスクリーンに見られる。12ポイントのMonacoフォント。サイズは 17x18cm。
CTR-B: 実験1の条件に似ている。14ポイントのChicagoフォント。サイズは 24x18cm。
→ ディスプレイサイズ、フォントサイズも違う。これで比較していいの?
結果
・読みのスピードは、Book > CRT-A > CRT-B の順で有意。
・理解度は、スピードの逆順であるが、有意な差ではない。
4. 議論
1991年時点で利用可能なディスプレイを用いて、ディスプレイでの読みは本での読みとスピード、理解度において同等レベルである。ペーパーレスオフィスは今にも起ころうとしている (The paperless office may be imminent after all)。
スキミングのスピードについては、CRTと本で大きな差 (41%) が生じた。しかし、これは次の4つの理由からペーパーレスオフィスを妨げるものではないだろう。
1) 違いは、スクリーンの問題よりもテキスト表示のフォーマットに依存する。現状のCRTのフォーマットはスキミングよりも読みに最適化されている。Kolers (1981) によると、狭いカラムはスキミングを向上させる。
2) スキミングのスピードの違いは、スピードと正確さのトレードオフの結果である。スキミングでも、理解度についてはCRTの方が高かった。
3) スピードの違いは、本条件でページごとの単語数が多いことに起因する。
4) おそらく、結果はタスクに依存したもの。実験では、物語が何についてのものかを得ることを依頼した。特別な情報のスキミングのタスクに変えれば、結果も異なるものとなるはず。
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